ご無沙汰しています、札幌医科大学放射線医学講座のフェローの眞船です。卒論がなかなかacceptされず博士号が取れずにいます。😇 それはさておき、今年も教室説明会のシーズンがやってきました。近頃この仕事も若手に譲りつつあり、あと幾度携われるか分かりませんが、引き続きよろしくお願いいたします。
今回のポスターは、私がとても愛するRPGゲーム『Fallout(フォールアウト)』にインスパイアされており、一段とマニア向けな内容になっています。
Falloutはその第1作が1997年にアメリカで誕生し、その後も様々な続編が作られ続けている人気の高い作品で、2024年にはTVドラマ化されることになっています。1950年代のアメリカのアトムパンクな世界観を背景に、すべてが原子力で動くという希望に満ち溢れた近未来とその後の核戦争で荒廃するという悲劇的な結末が、対照的かつユーモアに描かれています。
作中には放射性物質入りのコーラが回復アイテムとして登場し、これがなんと『Nuka-Cola(ヌカコーラ)』と名付けられていたり、敵役として現れる遺伝子変異した人型怪獣は『Super mutant(スーパーミュータント)』と呼ばれたりします。他にも、近未来の一流ロボットメーカーは『General Atomics International(GAI)』であったり、放射線を放つ巨大ゴキブリは『Radroach(ラッドローチ)』などと、ネーミングセンスがどれも秀悦です。ゴキブリと格闘すると主人公は放射能に汚染されますが、除染アイテム『Radaway(ラッドアウェイ)』を使うことで回復できます。設定がよくできており、放射線科医として大変むず痒い気持ちになります。
これは当科の先輩から伺った話ですが、UCSFにいらっしゃる小線源治療の大家は自身のオフィスにRadroachのポスターを貼っているそうで、Falloutの世界観を愛する放射線科医はどうやら私だけでないようです。
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さて、今年の2月に本学の第3放射線治療室の加速器が更新されました。搬入された治療器こそがまさにポスターに描かており、Siemens Healthineers製(旧Varian)のTrueBeamという機械です。サイズが大きいため分解された状態で搬入されますが、組み上げた後も設置精度の調整(芯出し)に何週間もの時間を要します。
搬入や精度調整の際は外装を取り外したまま行いますので、加速器の中身が剥き出しになっています。私はこの搬入作業を見ているのがとても好きで、治療装置がどのような構造になっているかを知ることができ、いつも大変勉強になります。
裸の加速器は大変無骨で、外装があるときのスマートな印象とはまったく異なります。たくさんのケーブルやパイプが複雑に繋がれ、案外アナログな機械だと分かります。そんな構造物を眺めていると、あのレトロフューチャーな世界観のPower armor(パワーアーマー)を想起させ、よし、若干の無理があるけどポスターを作ってみようかと思い立ったのでした。
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その昔、人類は原子力に大きな夢と希望を抱き、未来を空想することに酔いしれました。これは被爆国である日本においても同じで、アニメ『鉄腕アトム』が一世を風靡したことでも分かります。しかし時代が進む中で、核武装による政治的緊張や原子力事故による悲劇が繰り返され、人々はこの夢が簡単ではないと気づきます。
Falloutの世界観は、こうした夢と現実のギャップ、過去と未来のギャップ、アナログとデジタルのギャップを突いており、多くの人を魅了しているのだと思います。
日本は超高齢化社会となり、世界は戦争や経済危機が絶えず、未来を悲観する読者もきっといるでしょう。しかし鉄腕アトムから70年近く経ったいま、時代はやっと核分裂から核融合へシフトしつつあります。研究者たちの地道な努力によって、かつて人々が抱いた夢は想像よりも優れた形で実現しようとしています。
放射線治療においても、これからたくさんの変化と進歩がやってきます。私はそんな未来がとても楽しみです。世間の期待より少し時間を要すかもしれませんが、いつかすべての癌を放射線で倒せるようになる日を願いつつ、引き続き臨床と研究に勤しんで参りたいと思います。
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